†Bloody Cross†
自分の攻撃が片手どころかたった2本の指に止められたことに驚いたのか、木々の間の気配が微かに揺らぐ。
最初、あたしがここに来た瞬間からカレがいたのには気付いていたけど……。
彼方まで気付いていたなんて……。
驚愕から彼方に視線を移せば、刃先を捕らえていた片手は柄を握り締めている。
「僕の邪魔をした代償は大きいよ。まぁ、元同胞ってことで一撃で終わらせてあげるからさ」
「ダメッ……!!」
刃先が向けられてある先に気付いて、咄嗟に動かない腕ではなく脚を振り上げる。
――――ガン、ヒュ……ン
振り上げたあたしの左足は、短剣が彼方の手を離れる直前に短剣を捉えて確かに軌道をそらす。
軌道のそれた短剣は、まるで空に吸い込まれるかのように突拍子もない方向に飛んでいく。
「へぇ……ッ?!!」
彼方が驚いてあたしの両手首を拘束する手が緩んだのを見計らい、彼方の頭上を地を蹴って跳躍し彼方に蹴られた剣の元へ走る。
「逃げられちゃった……。まぁ、時間はたっぷりあるし、蒼ちゃんを僕のモノにするのは今度でいいや」
十分に間合いをとり再び握り締めた剣の剣先を彼方に向ければ、彼方の間延びした声が響く。
戦意喪失をしたのか、容易にあたしに背を向け歩き去る彼方はあたしが攻撃を仕掛けないとでも思っているんだろうか……??
確かに背後から攻撃を仕掛けたりはしないけど……。
「……姫」
彼方の後ろ姿が完全に見えなくなった時、木々の間から姿を現したあたしを呼ぶ切なげな声が聞こえてきた――――……