†Bloody Cross†


声がした方に視線をはしらせると、彼方よりも明るい金色の髪が見えて助けようとしてくれたのがカレだったことを確信する。


「助けてくれてありがとね、翡翠」


翡翠に何事も無かった事にホッとして微笑みながらそう言えば、翡翠は気まずそうに伏せていた瞳をあたしに向ける。

あたしを見つめるエメラルドどシルバーのオッドアイの瞳は、怒っているのか眉間に皺が刻まれている。


「ッ、何で僕が居るって分かってて、助けを求めないんだよ!!姫は、危うくアイツのモノにされちゃうとこだったんだよ?!!」


「……心配しすぎよ。ただ"キスマーク"とやらを付けられそうになっただけなんだから」


よほど心配をかけてしまったのだろうか、凄い剣幕でまくしたてる翡翠に気圧されながらも自分よりも少し背の高い翡翠の頬に手を添える。


「心配にだってなるよ……。いつも無茶ばっかりして、自分をもっと大事にしてよ……」


あたしの手に翡翠の手が重ねられる頃には翡翠の眉間に皺はなく、代わりに眉が哀しげに揺れる。


「それに……姫はほんとにアイツのモノに、されるとこだったかもしれないよ。アイツ、黒魔術つかいだし」


「そうなの??でも……あんな術、あたしは知らないのだけれど」


彼方が黒魔術つかいだなんて知らなかった……それにあんな術、見たことも聞いたことも無ければ使ったことも無い。

"キスマーク"なんてものを見たのも初めてなのに……。






「僕が姫と交わした契約を弱体化かつ簡易化させたものだよ、あの術は」






疑問符を浮かべるあたしの耳に届いたのは、さっきとは打って変わった冷静な声だった――――……


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