恋人はトップアイドル
お母さんが働き始めてからずっと、一人で頑張ってきた。

でも頑張れたのは、お母さんも頑張ってくれていると、知っていたからだ。あたしへの申し訳なさがありながらも、自分のすべきことをお母さんは真っ当し続けた。それは今も変わらない。

その背中を見ていたからこそ、寂しさがあっても、不満があっても、あたしは頑張ってこれた。

誰よりも憧れて、尊敬しているお母さんの言葉は、今までのあたしの苦悩を何もかも水に返すほど、嬉しいものだった。


胸に込み上げる気持ちを、なんとか押さえ込む。

じゃないと、泣いてしまいそうだった。


「あと少し、頑張りなさい。優美なら、やれるわ。」

「・・うん。頑張るよ。」


お母さんの微笑みに、力強く頷いた。




「ところで、優美。今度は、お母さんの話なんだけどね・・。」

「え?何?」

パスタを飲み込んだ後、あたしは聞き返す。
どこか落ち着きのない様子のお母さんに、違和感を覚えた。

「今お母さんが、アメリカと日本を行ったり来たりしてるのは、知ってるでしょ?」

「うん。」

お母さんの会社は、世界有数の貿易会社だ。そこは、お父さんがいた場所でもある。

お母さんはその会社の中でも、女性でありながらも、その知識と賢さ、機転で、花形部署のトップを勤め、今は本社があるアメリカとの重要なコンタクト役を担っている。

いわば、相当なキャリアウーマンだ。

だけどそれが相当な過酷な仕事であることを、知っている。そして辛くてもそれをこなすのは、お父さんのためだと知っている。

未だに、左手薬指に光る、結婚指輪。


それがお母さんの、変わらない愛情の証だ。


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