恋人はトップアイドル
ホテル内のレストランで、悠と夕飯を食べた。メンバーと食事に行くのは、こういう長いツアーでもない限り、あまりない。久しぶりに男2人で語る時間は、何だか居心地がよかった。

「・・東京始まった時、実は俺、少し泣きそうになったんだ。」

夕飯を食べ終えて、最後に頼んだビールを飲みながら、悠が言った。

「あー、やっとここまできたかぁと思ってさ。」

「それは俺も思った。」

「だよな。結構軽く考えてたんだ。デビューして、1年か2年くらいすれば、すぐドームでコンサート出来るようになんのかな、ってさ。」

「3年経っても、ライブハウス少しでっかくしたくらいのハコでしかコンサートできなかったもんな。」

2年前を思い出す。

あの時は、メンバーみんなが相当焦っていた。個人の仕事もない。コンサートもこんな小規模でしかできない。

俺たちに足りないものはなんなのか。

話し合わなきゃいけないのに、力を合わせなきゃいけないのに、メンバー同士で責め合って、険悪なムードになって、それはきっと、表にも出ていたとおもう。


「全ては輝のおかげだよ。」

昔を思い出していると、ふと悠がそう言った。思わず顔をあげる。微笑んだ悠と目が合った。

「輝が2年前、あのドラマのオファー引き受けてくれたから、俺たちの今がある。・・・ま、あの時は少し嫉妬してたりもしたけどな。許せよ?」

「・・・んなことで怒ったりしねえよ。」

悠の本音に、少しだけ胸が温かくなった。今が多分、一番いい関係になれている。それはきっと、苦しい所を乗り越えてこれたからだ。

「でも、先は長いからな。これからだ。」

「・・そうだな。」

そう、先は長い。いつまでアイドルをやっていられるのかさえ、わからない。

でも、今は突っ走るだけだ。


悠はそんな俺の気持ちに同調するかのように、小さく頷いた。

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