恋人はトップアイドル
Return to 0.思い出の中できみを呼ぶ
バシャッ、バシャッ・・

「いいね、かっこいいよー。ちょっと目線あげて。うん、いいねー。」

バシャッ、バシャッ・・。

どんどんと切られていくシャッター。

「身体横にして、顔こっち。睨んで。」

バシャッ、バシャッ・・。

その要求に応えるようにカメラを睨む。

「もっと!」

バシャッ、バシャッ。

「いいよ!ゾクゾクするね!」
バシャッ、バシャッ。

「今度はちょっと微笑んで、いや、そんなかわいくしないでー。嘲笑う感じで!」

バシャッ、バシャッ。

「うん、いいね!」

その一言で、最後の撮影は終わった。




チェックを終えて、楽屋へと戻る。
明日から始まる全国ツアーのため、今日は雑誌や広告、つまり媒体の仕事だけで済んだ。

そういう日は気分的にも楽でいい。

「あれ?輝先輩?」

その声に振り向いた。

「あーやっぱり!」

「南か。」

違うスタジオから出てきたのは、違う事務所の南だった。今、実力、人気ともにNo.1の女優だ。春のクールで一緒に連ドラをやって以来の再会だった。

「お久しぶりです!先輩も撮影ですか?」

「ああ、今終わった。」

「あたしはまだまだなんですよー。今日は30媒体もあって・・。」

「死、だな。」

さすが人気者。媒体の数は、一番それを表す。

「ですよねえええ。」

南がガックシと肩を落とす。それに笑った。
可愛い顔をしているし、身長も高い、見た目には十分派手なのに、中身は意外とコミカルで小心者。けれど自分の今の位置に甘んじることなく、こいつなりに努力してるし、情も深い。

演技になれば、豹変するしな。

今までに出会わなかったタイプの女優だ。俺はそんな南を妹みたいに思っている。

「先輩、明日からですよね?」

「ああ。」

「チケットってまだ買えますかねっ?」


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