恋人はトップアイドル
「い、いいの・・?」

「なにが。」

「だ、だって・・っ・・。」

優美の目からぽろぽろと涙が溢れる。
それが綺麗だと思った。

「俺は、お前を手放すつもりはねえぞ。お前が大人になってくのを見届けんのも、お前をいつか一人前の女にすんのも、俺の役目だ。・・・誰にも渡さねえ。」

優美の細い首に、ネックレスをつけた。胸元で光るそのリングに、俺は心底安心した。

・・これが、束縛ってやつか?

「輝、それって・・。」

涙の止まった優美が、何かを言いかけて止める。

「まだ、結婚はできねえけど。全国ツアーを終えて、もっともっとグループを大きくして、誰もが認めるくらいビッグになったら、お前のこと周りに認めさせてやる。そしたら、普通のデートにも連れてってやるし、どこだって行ける。
それまでは・・・お互い、少し我慢だ。」

優美が、うんうんと、頭だけで頷いた。

「輝・・、あたし、幸せだよ。本当に、本当に、幸せだよ。」

「そうでなきゃ困る。」

俺はそう言って、もう一度優美にキスをした。


「さ、帰ろうぜ。お前ん家に。」

「え・・、あたしん家?」

「そ。」

「でも・・、バレるんじゃ・・・。」

「平気なんだよ、今日はな。」

訝しげにする優美を離して、俺は車を発進させた。




このとき、俺の頭の中には、優美との幸せな未来しか映っていなかった。

だから見落としてたんだ。
忘れていた。

俺はいろいろなものを、いろいろな人を、傷つけて、今ここにあるんだってことを。
忌まわしい過去を。

自分の置かれた環境が、どれだけ制約があるかということも。

それに気づけてたら・・、もっとうまくやれたのか?
優美を、傷つけないですんだのか?


いくらその答を探しても、

今はもう、
見つからない。


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