恋人はトップアイドル
初めてこの世界に入った時は、利用するだけだと思ってたし、いつか恨めしく思う日が来るなんか、想像もしなかった。

実際今だって、俺にはこれしかないと思ってる。
この仕事しか。

でも、好きな女が、初めて惚れた女が、一般人だとは・・・。

困ってるわけじゃない。
乗り越えてやるだけだ。

ただ、もっと逢いたい。
もっと愛したい。

その時、自分の立場が枷になる。

それでも手放せねえけど・・。

すると、ピピピ・・と、何かが鳴った。
さっきのデジタル時計だ。

まだ5時半なのに。

すると優美がその音に、顔をしかめた。


起きるか?


「・・ん・・っ・・。」

優美の寝ぼけた掠れた声に、ドキッとする。
身体を繋げたことで、制御ができねえ。

俺は、中学生かっつーの・・。

思わず苦笑した。

「優美?」

声をかける。
すると、優美がゆっくりと、その大きな瞳を開いた。

焦点の定まらない瞳が、徐々に俺を掴む。

「おはよう。」

優美は瞳をパチクリとさせて、俺を見つめた後、いかにもわかりやすく、顔を赤くさせた。

「あ、輝・・っ。お、おお、おはよう・・っ。」

布団に顔半分を埋めて、瞳をこちらに向けながら、優美はそう返した。

・・・なんだよそれ。朝から可愛すぎるだろーが。


これが計算ナシだってんだから困る。

「時計、止めなくていーのか?」

まだピピピと鳴っている。

「あ・・っ。」

優美は今気づいたように、急いで起き上がって、布団を出ようとした。

が。

どうやら自分のあられもない姿に気づいたらしい。

「や、やだっ。」

そう叫ぶと布団に逆戻りしてしまった。

ちくしょう。


「いい眺めだったのに。」


素直に言うと、優美が涙目で俺を睨んだ。


< 217 / 254 >

この作品をシェア

pagetop