恋人はトップアイドル
「・・覚悟なんか、してなかったんだと思う。」

「・・・覚悟?」

輝が、どういう意味かと言うように聞き返す。

「・・・うん。この会長の地位だって、守り切れないかもしれない。あたしが、その歴史を、汚すかもしれない。それでも、やり通す、って覚悟。」

「・・お前はそれでも、やることを選ぶんだな。」

輝が呆れたように笑った。

「輝さっき・・、誰のために、なんのために、やってるのかって聞いたよね?」

「ああ。」

「あたしは、あたしのためにやってきたと思う。だけど・・、輝に出会って、あんなキラキラした世界を見て、色んな世界があるんだなって知って。多分、迷っちゃったんだと思う。あたしはこのままでいいのかな、って。今までの矛盾とか、色んなものが、不安に変わったってゆうか・・・。」

「ってことは元を通せば、俺のせいかよ。」

輝が苦々しく呟いて、あたしは体を起こした。

「それは違うよ!あたしは輝に会えて、今まで知らなかった世界を知ることができたんだよ。輝がいてくれて、それがどんなに・・、会う前から、どんなに輝に救われてたかっ・・」

あ、やばい。
また泣きそう。

思い出す。
本屋でたまたま開いた雑誌の中、輝を見つけた日のこと。
それからメジャーになるまで、雑誌でもテレビでもライブでも、輝を追いかけたこと。

追いかけている時は、嫌なことも忘れられた。

輝を見ていると、自分も共に輝いているような気になった。

「輝がいてくれたから・・、あたしはいつも、幸せな気持ちになれたの。頑張ろうって、思えたの。」

いつの間にか、こんなに近くなった輝の目を見つめながら伝えた。

何よりも、誰よりも、
大切な人。

「・・すげえ殺し文句だな。」

少しの沈黙の後、輝が嬉しそうに笑った。


< 244 / 254 >

この作品をシェア

pagetop