恋人はトップアイドル
自分が無意識に唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。

「君達には、それをあと2週間程で覚えてもらう。もちろん、ベテランスタッフがサポートにつく。多少の失敗なら、そのスタッフが背負ってくれる。
しかし体力的には相当きつい。Rへのファン意識も、一旦捨ててもらう。」


Rへのファン意識を、捨てる・・・?

そんなの、ううん、輝へのこの感情を、捨てることなんて出来るんだろうか。


憧れてやまないこの気持ちを------------。


「だから、今一度聞く。

君達は、ここまで聞いても、それでも、Rのツアースタッフをやる覚悟があるか?」


その言葉に、すぐには頷けなかった。社長が真剣なことも、他のスタッフが真剣なことも、よくわかる。

だから、生半可な気持ちで引き受ければ・・、きっと迷惑をかける。自分自身、やっていけなくなるかもしれない。


「わ、わたし・・、Rのみんなと話したかっただけなんです・・。」


そんな思いに頭を巡らせていると、隣の女性が震えた声を上げた。


「そんなファン意識では、この仕事は無理だ。」


社長は冷たく言い放つ。

「そんな大変だなんて・・、どこにも書いてなかったし・・!私はただ・・、Rに会いたくて・・っっ。ば、バイトだって、他にしてるんです。だから・・・。」


確かにどこにも、今社長が言ったようなことは書いてなかった。これも戦略のうちの一つなのかもしれない。

でも、まだやってもいないうちから、諦めたらもったいない。


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