恋人はトップアイドル
「このまま学校に行くのでいいんだな?」

「うん。」

優美の返事を聞いて、俺は多分初めて行くであろう、王蘭高校へ車を走らせた。

ぶっちゃけた話、勉強があまり得意じゃない俺にとっては、縁のない場所だ。

「そーいやお前ん家さ、親とか兄弟いねえの?」

俺はハンドルを握りながら、さりげなく聞きたかったことを口にした。

「うん、あたしは一人っ子だし、親も仕事だから。」

「母親も?」

「うん。」

あんなにでかい家に住んでるなら、仕事しなくてもいいんじゃねえの?

なんて思ったけど、そこら辺は人それぞれ理由があるんだろう。

「あたし、一人であの家住んでるようなもんだから。」

優美は続けてそういった。

・・一人で?

「・・親、帰ってくんだろ?」

「んー仕事忙しいみたいで、あんまり。実際今週もまだ一回も会ってないし。」

「まじかよ?」

「まじです。」

静かな驚きがあった。
知れば知るほど、自分が抱いた勝手なイメージを、優美は壊す。

いつも笑ってるし、明るいから、それなりの家庭で愛されて育ったんだろう、と勝手に思っていた。
でも、どうやら違うらしい。


こんな広い家に、高校生の娘が一人って・・いいのか?

優美は、寂しくないのか?


優美の横顔をちらりと見れば、もう窓の外に意識を向けていた。
端正で賢そうな横顔からは、何の感情も読み取れない。

聞く限り、見る限りでは、優美はそれをさほど気にしているふうでもない。


俺が気にしても・・、仕方ない、か。


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