迷宮の魂

 出勤早々、三山刑事が自分のデスクへ息せき切ってやって来たものだから、前嶋は新たな事件でも発生したかと勘繰った。

「これまでの捜査状況を私なりに精査し、幾つかの疑問点を纏め上げてみました」

 勢い込んで一気に話す三山の手から、びっしりと書き込まれたレポート用紙が渡された。

 一度さっと目を通した前嶋は、もう一度丹念に読み直した。

 三山のレポートには、これまでの捜査から報告された何点かについての、彼女なりの疑問点と、推測が書かれてあった。津田遥の遺留品に関しての疑問点は、前嶋自身もそう思っていた部分だったので、読み直しながらつい肯いてしまった。

 第一発見者である林文雄と階段でぶつかった佐多らしき人物は、手に何も持っていなかったという。

 現金や小さな貴金属類だけならば、服のポケットに入れて持ち去ったとも考えられるが、津田遥が八丈島で生活していた当時に所持していたブランド物のバック類は、どうやって持ち出されたのか。

 犯罪者の心理に立って考えたとしたらば、殺した直後は一時でも早く現場から立ち去りたい筈である。

 勿論、中には犯行直後であっても、冷静に殺害現場を物色する人間も居るが、第一発見者とぶつかった時の状況は、かなり慌てていた様子だ。

 小野美幸と佐多和也が共犯であるとするのなら、佐多らしき男が逃亡した時点で、小野美幸は何処に居たのかという疑問が残る。

 先に小野美幸を逃がしたとも考えられない事も無いが、これまでのところ、現場周辺で挙動不審な女性についての目撃証言は報告されていない。

 読み終えた前嶋は、暫く考え込んだ。

 前嶋のその様子を見ていた三山は、早く自分が出した結論について語ってくれないかと、気をもんでいた。
















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