迷宮の魂
結論の所に、偽装という観点から事件を振り返ると、佐多和也を犯人とする事よりも、全ての物証、事象が自然と繋がるとあった。だが、それ以上に目を引いた文言は、
佐多和也の思い違いによる偽装……
の一文であった。
前嶋がさっきから考え込んでいた理由は、そこにあった。
腕組みをしていた手を頭の後ろへ回しながら、漸く前嶋が口を開いた。
「三山君、これは他の誰かに見せたりとかは?」
「キャップが最初です」
「小野美幸と佐多和也が共犯、この考えは、本部でも持っている。しかし、実行犯がこの二人ではなく、別な人物だという考えは誰も持っていない……」
前嶋は瞑想するかのように腕を組んだまま押し黙った。
じりじりとする三山は、
「覚醒剤絡みのトラブルか何かで、高瀬亮司が津田遥を殺害し、偶然、死体を発見した佐多和也は、それが小野美幸の犯行と思い違いをしてしまった……彼女を庇う為に、あたかも自分が殺したように室内を偽装した……そう思えませんか?」
三山の声が高くなり、離れたデスクで書類を整理していた加藤が、何があったんだという表情をしながら、前嶋のデスクまでやって来た。
加藤は、前嶋のデスクに置かれたレポートに視線をやり、三山の方へ向き直った。
「おいおい、またなんか出しゃばりか?新人さんは言われた事をやってりゃいいんだよ」
前嶋はいいんだ、と目で頷き、三山のレポートを加藤に見せた。
「三山君がこんなものを書いて来た」
渡された加藤はそれを一読するなり、三山に毒づき始めた。