迷宮の魂

 ルカが心配そうに覗き込むと、

「少し飲みすぎた……」

 と言った。

 そういえば、何時も酒の臭いをさせていたなと思い出した。

「大丈夫?」

 無言のまま頷く男の背中をさすって上げようとして触れた瞬間、男はびくっと身体を震わせた。

 ルカがそのまま背中を何度かさすると、

「だいぶ良くなったよ。ありがとう……」

 そう言って男はベッドに戻り、そのまま横になった。

「少し横になってれば良くなるさ……俺の事は気にせず、時間が来たら帰っていいよ」

「うん。ねえ、お水とか飲んだ方がええんちゃう?」

 男は何も答えず左腕で自分の顔を覆った。その時、少しばかりたくし上げていた袖口から、何本も付けられた手首の傷跡が見えた。

 ルカはその傷を見てはっとした。

 見覚えのある傷跡。

 自分の左手首にも同じ傷が何本もある。

 偶然に見たその傷跡に、ルカは自分の過去を重ねていた。



 
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