空中少年(Gnawing at this heart)
陽の落ちるのもずいぶん遅くなった。

グレーのカーディガンを羽織らずに手に抱え、中里は私の隣を歩いている。



「もう夏だね」

長い影を踏みながら、歌うように中里が呟いた。

「もうすぐ期末試験もあるし」

「嫌なこと思い出させないでよ」



あと一月もせずに夏休みが来る。その前に期末試験だ。

芯から優等生の中里には、定期試験なんて対策を立てる必要もないのだろう。

試験前に焦っているのを見たことがない。そのくせ順位は一桁だ。

今だって、げんなりとする私を見て笑っていた。



「長谷川だって頭いいじゃん」

「あたしは中里とは違って、直前に詰め込んでるだけなの」



学級委員の副委員長に選ばれたのは、それなりに成績がよかったから。

でも、私は中里みたいに、毎日頭がいいわけではないのだ。



「明日までの英語の課題も、実はまだ手もつけてないんだよね」

「マジで? 結構時間かかったよ。終わる?」



困ったように眉を下げてみせれば、手伝おうか、と私の欲しい言葉が降ってきた。



これだから私は中里が好きなのだ。
私のため、をしてくれるから。
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