空中少年(Gnawing at this heart)
ファーストフード店に入ると、中里はテーブルにつくなり、鞄から電子辞書を取り出した。

一方の私はまずバニラのシェイクをすすり、ポテトをつまむ。
誰の課題なんだかわからない。



「中里、電子辞書なんだね」

意外に思って呟くと「何で?」と返される。

「生真面目に紙辞書めくってそうなイメージあったから」


私の言葉に、中里は事も無げに

「紙辞書は学校用と家用にあるから。電子辞書なら持ち歩いても重くないでしょ」

と答えた。


きっと中里は、ゲームセンターにだって電子辞書を持って行くんだろうなと思って、私はつい肩を竦めてしまった(ゲーセンなんて行かなそうだけれど)。

引くのが楽だから電子辞書を使っているなんて、中里に対する認識が甘かったらしい。

学校と家に辞書を一冊ずつだなんて、私には考えられない。



「手伝うって、写させてくれるわけじゃないんだね」

「俺のを写したって、長谷川の勉強にならないじゃん」


少し困ったような顔になる。中里は本当に真面目だ。

こんなことを言う人間が、教師側でなくこっち側にいるとは思わなかった。
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