雪がとけたら
第四章【成長過程】



……………


僕は多分、普通の小学生は経験しなくていいことを経験したのだと思う。


それがいいだとか悪いだとかは思わない。

ただ確実に、あの時期に経験したことは今の僕に繋がっていると思うんだ。


例えば僕の中に小さな歪みがあったりだとか、小さな優しさがあるのであれば、その種は小学生の時期に蒔かれたのだと思う。


そんな時期にも、やがて終わりはくる。

僕は、小学校を卒業した。










…「全然卒業って感じじゃねぇな」

胸の花をぽんっと投げて、僕はあいつに言った。

「みんな同じ中学だもんね。実感ないんじゃない?」

あいつが話し終えると同時に、投げた花が手元に戻る。

後ろを歩くあいつは、僕みたいに花なんかで遊んでいない。

あいつの花は、ちゃんと綺麗に胸元で咲いていた。



卒業式用に買ったのであろう紺色のワンピースは、あの日の黒いワンピースを彷彿させる。

ただ何故か、あの日のあいつの記憶は辛いものではなかった。

両親の死は今でも僕に重くのしかかるけど、葬式の日のあいつを思い出すと、何故だかすっと気持ちがクリアになる。


卒業式の日のあいつも、そんな感じだった。




< 59 / 300 >

この作品をシェア

pagetop