恋、想い、春の雪
恋、想い、春の雪

・それはまるで

それはまるで台風のようだった。


「遅刻するー!!」

転げ落ちるように階段を下りてくる彼女。不完全な着方の制服、結んでいないネクタイ。

「朝練って言ってたのに!起こしてよね、ひろ!」

「自分の事は自分でしなさい、さや」

さやのお母さん―――僕にとっては叔母さん―――は、こら、とさやをたしなめる。

「ひろ、これちょーだい!」

返事も待たずに、さやは僕の皿からハムを盗んでぱくりとくわえた。

「お行儀悪いよ、さや」

「ほあはいほろは、ひにひない!」

細かい事は気にしない。

およそ日本語ではない彼女の台詞を律儀に訳しながら少し冷めたコーヒーを飲み干す。

「じゃあね、行ってきまーす!」

彼女は手にしたバターロールをくわえて学校へと走っていった。


台風みたいな子。

明るくて元気な、僕の従姉妹だ。



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