恋、想い、春の雪

・Chance or……

「涼」

放課後みんなが部活へ向かう中、何故か帰り支度をしている友人に声をかけた。

「部活、行かないのか?」

振り返る彼の口端に貼られた、大きめの絆創膏。

「しばらく休むんだ」

「え、だって涼、レギュラーに選ばれたんだろ」

「あ、うん」

「お前には才能あるって顧問もキャプテンも期待してるのに。上手く行けばそっちの大学に推薦してもらえるかもなんだろ」

涼はうんと頷き、鞄を持って教室を出る。僕も後をついていく。

「しばらく休むって言ったらふざけるなって殴られちゃった」

キャプテン熱い人だからさ、と笑う。

「どうして休むんだ?今度の試合だって大事な試合なんだろ?」

うん、と肯定しながらも足を止めない涼。

ふと、嫌な予感がした。

「……そんなに、悪いのか?」

あえて主語を抜いて聞く。それでも涼には通じたらしい。

「……うん」

やっと足を止め、涼は目を伏せて続けた。

「夏夜、もう退院は出来ないって」

「そう、か」

生まれつき病気だった涼の幼なじみの夏夜。涼はずっと、そう、数えるのに両手の指が必要な程長い間夏夜を想っている。

「毎日来るからって、頑張って次の満月も一緒に見ようって約束したんだ。だから……」

涼は小さく息を吐き、顔を上げた。

彼は微笑んでいた。その表情には一点の迷いもなかった。

「夢を掴むチャンスを逃すのと夏夜との約束を守れない事。どっちが後悔するだろう……って考えたら答えは簡単だった」

だから、殴られても、単位足りなくて留年しても平気。

じゃあ、と片手を上げ病院へ向かう彼の後ろ姿を、僕は黙って見送った。


涼の、夏夜への想いは本物だ。

僕はどうなんだろう。

願ってもないチャンスがどうぞと手を差し出してくれていても、さやを選べるだろうか。

『答えは簡単だった』

そう言えるようでありたいと願い、僕は美術室へと足を向けた。


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