【スプリング・ハズ・カム】（BL）

そう、その春っていう最低な季節に起こったことを、ちょいと君に聞いて欲しいんだ。別にそんな大した話じゃない。僕にとってはひどく重大だったり、かといって僕や君の人生にとっては些末なことに変わりのない出来事だ。だけど君に聞いて欲しいと思ったんだ。何でかなあ。君はとても綺麗な瞳をしているよね。いやいや、変な意味じゃなくてさ。すごく、少女のような瞳をしている。陳腐な表現で申し訳ないけどさ。ああ、そんなに警戒しないでおくれ。やっぱり君はちゃんとした経験を持った一人の女性なんだね。その様子を見て僕は安心したよ。

でも僕は君にこのことを話すって決めてしまった。君は、僕の目を見てうんうんと頷くよね。僕はそれにひどく安心するんだ。君が僕の話を理解していようがいまいが。ああ、気を悪くしたなら謝るよ。でも、君のその一般的な感受性が僕にとってはすごく救いなんだ。

結局人が自分のことを表現する方法って、言葉か、文章かそんなもんだ。で、相手がそれをどう受け取って理解してるかなんて、それがすっかり正しいなんて、実は全く不可能なことだ。だから、君が僕の話を聞いてどう感じるか、どの程度の印象を与えるか、僕はあまり想像出来ない。だから、悪いなあ、とも思うんだけど、君は君の記憶のコントロールを自由にしてやってくれ。それが君にとっての僕になるからさ。

なんて勝手なことを!って君は思うかもしれないな。悪いね。本当に悪いと思ってるんだよ。あまり信用されたことはないけれど。ああ、そんなに警戒しないでおくれ。そう、春の話だ。僕のこの世の春の話。君は警戒する必要はないよ。実は、僕はゲイなんだ。