出世魚
前出しの作業をしていると、彼がやってきた。

「見事に直してみた。」

誇らしげにトランシーバーを持っている。

「ありがとうございます。」

「あ、一応ほんとに直ってるか試してみる?」

「はい。」

そういうと彼は自分のシーバーを片手にちょっと離れた。

「久江です。栗原さんとれますかー。」

「栗原です。どうぞー。」

いつものやりとり。

店員達はこうやって、○○の在庫ありますかー?とか
△△の色違いって取扱いありますかー?とか聞く。

「うちの店長、カツラだって知ってましたかー?」

急になんてことを!

それも、全員が聞いてるシーバーで言うなんて。

「今は店内とは違うチャンネル使ってるから大丈夫。」

そういうことか。

「知りませんでしたー、と言いたいところですが
初めてお会いした時に一目で分かりました。」

彼の笑い声が遠くから聞こえた。


それから少しの間、違うチャンネルを使って
彼はこの店の色んな事を教えてくれた。

「今までの情報は極秘事項だからな。」

「了解しました。」


初めて二人だけの時間を過ごした気がして
とても嬉しかった。
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