フェイクハント
 すると再びギギギッと嫌な音がし、霊安室の扉が開いた。

 そこには、真っ赤に目を腫らした遥が、呆然と立っていたのである。

 そして静夫の遺体が目に映ると、遥はみるみる泣き顔になり、


「静夫ーーーっ、嘘でしょ……。冗談よね?」


 そう叫ぶと、少しづつ典子の隣りに近づき、静夫の遺体を間近で見た瞬間、更に大きな声で泣き出した。遥の勢いで、典子はだんだん落ち着いてきたようだった。

 静夫の秘書でもある遥は、警察からの連絡を受け、駆けつけたのである。

 しばらくして、海人は典子と遥を連れ、霊安室を出た。

 暗い廊下に並べられた、何の飾り気もない長椅子に二人を座らせると、海人は廊下の壁にもたれた。ひんやりとした壁の感触が服の上からでも伝わってくる。

 そして沈黙を破ったのは遥だった。 


「ねぇ、何で四人目の被害者が静夫なの? 海人はどうしてチェスターを野放しにしてるのよ! もし捕まえてたら、静夫は殺されなかったのに!」


 遥はやり場のない気持ちを、刑事である海人にぶつけると、そのまま両手で顔を覆い、嗚咽を上げた。

 いつの間にか、泣き止んでいた典子は、焦点が定まっておらず、宙を見て、ただ呆然としていた。

 海人は壁に寄りかかったまま、二人にかける言葉もなく黙っていると、廊下の奥から単調な足音が聞こえてきたので、反射的に振り返ると篠田さんだった。
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