王国ファンタジア【氷炎の民】完結編
ファンタジア
 荒れ果て、白茶けた大地。
 何もない。
 草一つはえぬ、ただ渺々(びょうびょう)とした荒野。
 そこに、金色の巨大なドラゴンが土煙を上げて、降り立つ。
 黄金の鱗に包まれた竜は片翼を地面に下げた。
 と、その背に乗った人物が身軽に滑り降りる。
 まだ若い。
 成人すらしては居ないだろう。
 華奢な背に、渦巻きながら流れる落ちる長い髪はきらめく金。
 荒野を見回す瞳は、ドラゴンと同じ鮮やかな翠。
 若々しく透き通った声が、苦くつぶやく。

「酷いものだな」

 まだ大人にはなりきれない少女の声だった。

『このままでは復興どころか人が住むことすら望めまい』

 ドラゴンは少女の頭の中に話しかける。
 しかし、少女は動じなかった。

「どうしたらよいと思う?」
『簡単なことよ。我が礎となればよい』
「礎?」
『我の心、体、力、すべてを使って大地を浄化し緑を呼び覚ます』

 ドラゴンの言葉に少女は翠の瞳を瞠った。

「そんなことをしたら、お前はっ!」
『死すわけではない。我は大地そのものと化すだけのこと。永遠にそなたとそなたの血を継ぐ者たちを護り続ける』
「なぜそこまで?」
『なにゆえと聞くか? 闇に落ちた我を引き上げたのはそなたではなかったか。我が黄金の姫君よ』
「あれは……」

 少女はドラゴンの首元に抱きつき、顔を埋める。
 震える声で囁く。
 
「私こそお前に何もできない」
『その言葉だけで十分と言うものだ。さあ、離れよ。愛し子よ』
「ファンタジア」

 少女はドラゴンの名を囁く。

「私は決してお前の恩を忘れない。お前の名はこれより我が王国の名だ」

 少女はドラゴンから体を離す。
 黄金の竜は首を空に向かって差し上げ、翼を広げる。
 巨体が黄金に輝く。
 ドラゴンは七色の光となって四方に弾け飛んだ。
 大地が黄金の光に包まれる。
 一瞬後、少女の掌には透明にきらめく大きな石が残された。
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