王国ファンタジア【氷炎の民】完結編
守護竜
『建国の昔、戦いに荒れ果てた王国を復興させるため我は大地と同化した』

 ドラゴンの翠の瞳が感慨深げにレジィが捧げ持つ錫杖にはめこまれた宝珠を見下ろした。

『それは竜珠。我が記憶と力の一部を封じ、守護石として王族の手元に残したもの。王国の守護竜としての我と王族の姫との間の盟約の証でもあった』

 ドラゴンの傷ついた身体をやわらかな金の光が包む。
 光の中でドラゴンの身体の輪郭がゆがむ。
 押し潰されるように小さくなる。
 光の中から再びあらわれたとき、ドラゴンの傷も癒え、きらきらした金の鱗をも取り戻していたが、人の腕の長さほどない小さな姿に変じていた。

『しかし、長の年月の間に人の欲に当てられ赤く変成し、本来の力を失ったどころか、王族の命を代償にせねば力を発揮しえなくなってしまっていった』

 サレンスたちの頭の中で響く重々しい声だけは変わらない。
 
『我と盟約を交わした黄金の姫君は遠の昔に儚くなり、かの姫の血を継ぐものも次第に私利私欲と権勢欲に塗れていった。盟約の効果は薄れ、我は竜の姿を取り戻した。しかし、人の欲に当てられた竜珠は我自身にも影響を与えていた。理性を失い、王都を襲った。王宮は守りを固めるために守護石の力を使い、さらに変成を進めてしまった』

「悪循環に陥ったと言うことか?」

 サレンスの問に小さな姿のまま宙に浮いたドラゴンは頷いた。

『そのようだ。王都を襲えば襲うほど、王宮の護りは固められ、そのために守護石の力が使われ王族の命が削られる。王族を守護する盟約を交わした我は、心ならずも自ら契約に反しさらに理性を失った』

「なんや哀しい話やなあ」

 声に竜は頭をめぐらす。
 翠の視線が黒髪に銀の房が混じる不思議な髪色のクラウンを捉える。
 ついで森の民二人に視線を移した。

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