王国ファンタジア【氷炎の民】完結編
「えっ!」
「あら」
「なんっ!」

 あまりにすばやく自然な動作であったためだれも止め得なかった。
 三者三様の声が上がる。
 しかし、サレンスは気にも止めなかった。

「手入れの行き届いた髪だ。これだけ長さがあれば高く売れるだろう? 最近はさすがに長くて邪魔になってきていたし、これ以上君に商品見本扱いされずに済むのなら、一挙両得だ」
「あんさん」

 あきれ果ててあんぐりと口を開け、大事にしている煙管を落としそうになるクラウンに、何を誤解したのかサレンスが問う。

「何だ? 君まであの森の民の美しいお嬢さんのようにもったいないとか言うんじゃないだろうな?」
「そういう問題やないやろ」

 突っ込むクラウンにサレンスは切り落とした己の髪を手渡す。しかたなく受け取ったそれをちゃっかり懐にしまいこむクラウンにサレンスは笑みを零す。なぜか妙に清清しげな笑みだった。
 その彼をレジィが恨めしげに咎める。

「サレンス様」
「何だ、レジィ。お前まで不満か?」
「それはそうです。そんな切り方したら。ざんばらじゃないですか」

 レジィの指摘どおり根元で適当に切った髪は、長さが揃わずに酷い有様だった。

「あとで切りそろえるものの身にもなってください」

 それに思わずクラウンが突っ込む。

「そっちかいっ!」
「え?」

 レジィが首を傾げる。

「まあ、髪はまた伸びるし、そんなに気を落とすな」

 フードの奥で何とも複雑な表情をするクラウンを慰めるようにサレンスが声を掛ける。

「なんでわしが気を落とすん?」
「そんなふうに見えるけどな」
「そうかい」

 やや膨れ気味のクラウンに柔らかな笑顔を返して、彼の凍青の瞳が三人のやり取りを冷ややかに見守っていた稚い少女に向けられる。

「で、その可愛いお姫様は?」
「ああ、なにやらあんたらに用があるって言うて、無理やりついてきよったんや」

 少々、げんなりとした口調であった。
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