王国ファンタジア【氷炎の民】完結編
「あなた、私の護衛になりなさい」
「ちょっ!」

 いきなりの姫君の発言にレジィが声を上げるが、サレンスは少年の言葉を遮る。

「麗しい姫君、あなたの要請は魅力的だが、私には荷が重すぎる」
「私とて不本意です。でもあなたが私の護衛をし、レジアス殿があなたの世話をするなら、けっきょくは彼は私に仕えることになるのです」

 姫君の言葉にサレンスは凍青の双眸を細めた。ひそやかな怒りが閃く。

「ほう、それはおもしろい理屈だ。確かに君は少し世間の荒波にもまれた方がいいな」

 サレンスは笑顔を崩さないが、言葉に混じる辛らつな棘を隠しもしない。
 しかし、幼い姫もまた負けてはいなかった。

「それはどういう意味ですの? 私を馬鹿にしているのなら許しませんよ」
「さすがにそのくらいはわかるか」

 凍青の瞳と翠玉の瞳がにらみ合う。

「サ、サレンス様」

 おろおろとレジィが声をかける。

「どうしちゃったんだろ、サレンス様。いつも可愛い女の子には無駄に優しいのに」

 氷炎の民の少年はサレンスが甘い言葉で女の子をたぶらかそうとすることには慣れていても、女の子、しかもレジィよりも年下の小さな女の子に対してけんか腰というのは見たことがない。
 どっちにしても心配なのは変わらないのは、つくづく苦労性な少年である。

「心配せんどき。あれはな、娘を嫁にとられたくないお父はんみたいなもんや」
「え、だれがお父さんで、だれが娘?」

 ますます混乱するレジィにクラウンは笑いかける。

「わからんでもええで」
 
 雷電の民の少女はレジィの手を引く。

「そないなことよりも、そろそろ行くか?」
「あっーとお姉さんも一緒に行くんですか?」

 レジィの言葉にクラウンの黄金の瞳に悪戯っぽい輝きが浮かぶ。

「せや。なんやおもろそうやからな」

 今や無言でにらみ合う二人に声をかける。

「いつまで見つめあってるん。先に行くで」

 クラウンの言葉に真っ先にセツキが反応する。

「うおん」

 一拍おいて。

「ちょっと待て」
「お待ちなさい」

 慌てて後を追う二人。
 どうやら新しい旅が始まったようだった。

「王国ファンタジア【氷炎の民】完結編」 -完-

< 12 / 13 >

この作品をシェア

pagetop