僕の唄君の声


階段を上がりきった所で急に玲がかわいい、とか言い出した。


「は‥!?」

もちろん、はてなが浮かび上がるのは当然のことで。それなのに次はキスがしたい、だ。

ガシリと捕らえられた腰は逃げられない。
でも逃げたい反面、安心するのも確かだったりする。(惚れた弱みか?)


耳元で囁かれた声にゾクリとしたが、
このまま流されてはいけない。
私の処女喪失、いや、ファーストキスが
失われるかもしれない重要な場面だ。


気をしっかり持て、壱葉!


思考の波から脱出し、意識を玲に集中させる。それを知ってか知らずか、玲は鼻先や唇を首筋に這わせた。



――‥‥慣れてやがる、この男。



急にいらついた。

むかつくむかつくむかつく。
ずるいずるいずるいずるい、


「ずるい」



恥ずかしいのは私だけ。

玲は私以外にも経験があって、

キスも普通に出来ちゃって。

そしてその行為は、


「軽いこと、みたいだし」

「‥‥、」

「‥‥‥‥。」


その言葉を機に無言が続いた後、玲の暖かさが背中から離れ、思い切り向かい合わせにされた。


「な、なに‥‥」

「‥てめェ、今なんて言った」

「‥っ!」


―――‥‥なんで怒るの。



ただ、低い声を出した玲が怖かった。





私が何も言わないのを悟ったのか、玲は私の腕を掴んで、いくつかある部屋の一つへと引っ張り込んだ。



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