僕の唄君の声


奏輔に触れられた肩。そこからジワジワと押し寄せる、あの人の感触と熱。

別に奏輔が怖いんじゃない。むしろ、なんだか安心感さえ覚えるような不思議な雰囲気を持ち合わせている彼だ。華己と結ばれたことでこちらも気兼ねなく友人として接することが出来る。

なのに―…、走馬灯のように昔のことが蘇った。



「普通に接したい、のにな…」


「壱葉…」



申し訳ないと思いながらも、体の震えを止める術は見当たらなくて。



「でも、玲のあの大きな手は安心できる。なんか…暖かいんだよね。」


「好き、なの?」


「…そんなんじゃないよ。なんというか、うん。」


「そう。…あ、部活見に行かなくちゃ!」


「あはは!…いってらっしゃい。」


「いってきます!」



あぁ、平凡だ。いつもの放課後。
華己を送り出し、私は何処かで詩を書く。



「…日常だ。」


ポツリと呟き、走り去る華己の背中を見れば何かを思い出したようにクルリと体をこちらに向けた。



「壱葉!」


「…!何〜?」


「信じてみなよ」




「……うん、」




信じてみなと言って、走り去る華己を見ながら頬を緩ませ、遅れて小さな声で返事をしたのが聞こえたか不安になりながらも反対方向へと歩き出した。



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