甘味処[斬殺]
「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい。ッてか、おかえり」

挨拶する祐樹を、ほんの数秒前に入った棗が出迎えてくれた。二人は連れ立って居間へと向かう。

「ちょっと待ってな。お茶でも出すから」

炬燵に祐樹を座らせ、棗はお茶の準備。居間とキッチンとの間にある戸を開け、開けたままで湯を沸かしにかかる。祐樹からは棗の後ろ姿が見えた。

「なっちゃんさぁ、なんで僕を呼んだのさ?」

「あん?」

祐樹の問い掛けにガラの悪い感じで答えながら、棗は湯が沸くまでの繋ぎに菓子を持ってきた。スナック菓子や煎餅で炬燵の上に小山を作りながら、淡々と話す。

「別に用事とかあったわけじゃないけどさ。鉄なんかとだらだらゲーセンにいるよりは、あたしと菓子でも食ってた方が健全だろ?金もかかんないし」

座った時に顔にかかってきた長い髪を、鬱陶しそうに後ろに払ってから、棗はスナック菓子の袋を開いた。祐樹はきょとんとして棗を見る。

「はぁ…なっちゃんを食べろって?」

「んあ?」

棗が菓子を口に運んだところで、祐樹は言った。棗には最初は意味がわからず、次の瞬間、いきなり赤くなった。

「な…ッあ!?何言ってんだ馬鹿お前ッ!」

「?…だって、なっちゃんがそう言ったじゃん」

どうやら、『あたしと菓子でも食って』という言葉を勘違いしたらしい、と棗は気付いた。健全とは全く程遠い意味合いに、棗は赤くなったまま、慌てて説明する。

「馬ッ鹿お前、あたしと一緒に、って意味だよ!馬鹿!エロガキ!馬鹿!」

「わけわかんないよ。馬鹿じゃないよ。エロくもないしガキでもないよ」

棗は21歳で、祐樹の外見年齢は大体15歳、高く見ても17・8がせいぜい。それは棗の年齢からすればガキと呼べる年齢ではあったが、祐樹の実年齢は棗の祖父母にちょうどいい。

「実年齢なんて何の意味も無いんだよ。外見と精神年齢がガキだから、祐樹はガキなの」

「ひっどいなぁ…あ、なっちゃん。お湯沸くよ」

祐樹の優れた聴覚は、5mほど離れた場所で湯が沸騰し始めた音を聞き取った。棗が立ち上がってキッチンに向かうと、ちょうど火にかけられたヤカンが鳴き始めた。
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