甘味処[斬殺]
何故祐樹が学校に行ったことがないかと言えば、祐樹が殺人鬼だからに他ならない。
…と言っても、無差別に人を殺して回る変質者というわけではない。祐樹は単に、殺人鬼という種類の生き物なのだ。
吸血鬼が血を吸う鬼であるように、殺人鬼は人を殺す鬼で。吸血鬼が血を吸って糧とするように、殺人鬼は人を殺して糧とする。そういう単純にして複雑な存在だ。
吸血鬼辺りと違って歴史上に例の無い存在であるため、それを殺す方法は不明。要するに完全無欠問答無用に不老不死。
一度サリーが心臓を刃物で刺し貫く方法を試みたが、それでも死ななかった。…というか、力任せに包丁を突き立てたにも関わらず、指で押したのと変わらない程度しか沈まなかった。
サリーは各種毒物を飲ませたこともあった。祐樹は泣きそうな顔で「苦い」と言って、それだけだった。
遂にサリーが祐樹の頭からガソリンをかけて火を点けたのは、昨年の冬だった。「どうせ何の反応も無いのだろう」というサリーの予想に反して、祐樹は燃え盛る炎の熱に対して「あつい!」と騒いだ。それが「熱い」ではなく「暑い」であることにサリーは気付き、仕方なく火災になる前に消火器の中身をぶちまけてやった。毛髪すら焼けていなかった。
もちろん寿命でも死なないだろう。現在の外見でふと誕生して以来80年が経つが、外見的な変化は一切無いのだ。髪さえほとんど伸びず、初期段階から3cmほど伸びた程度。サリーの唯一の希望は、突然寿命がきて憤死することはあるかもしれないということだが…細胞が変化している様子は一切無いので、あまり期待できる話ではない。
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