TO-KO
「………………」


瞳子が、その言葉に否定の行動が取れないのは、その中に何か暴言が混ざっていたからだったりした。


「まぁ、いいけど。トーコの泣き顔も見れたし。結構そそるね」


ベルフェゴールは瞳子をのぞき込んだまま、妖艶に口角を上げた。

「っ………、せ、セクハラです!!」

顔を真っ赤にさせ、瞳子は弾かれるように立ち上がる。
ベルフェゴールがこんなことを言うとは思わなかったため、まさに不意打ちだった。
ベルフェゴールもそれを見て、ゆっくりと立ち上がった。

「これでセクハラって?君、馬鹿だね。………誰だって裏の顔はあるだろう?―――ねぇ、拾われもののトーコちゃん」


先程の妖艶なオーラは消え失せ、ベルフェゴールのその瞳は普段の凍てついた湖のようだった。
まるで、すべてを見透かしているような、すべてを理解しているような―――。
瞳子は思わず、身震いをした。


「っ、何か知ってるのー…?」


そして、思わずそう口に出していた。


「………何かって?」


腕組みをして、依然凍てついた眼のままこちらを見てくる。
こてんと首を傾げているが、全然可愛らしくないのはその目のせいだ。


「………いや、あの…別に」


誤魔化すように、瞳子は俯いた。勘、だった。
本当に直感だったから、自分でもよくわからない。
ただ、ベルフェゴールの見透かすような瞳が誰かに似ている気がして、思わず口に出していたのだ。

「―――まぁ、いいや。………早く、そこから退いた方がいいですよ。流石にそろそろ、簡単に股を開く阿婆擦れ女と出会しますから。そんなことになったら嫌でしょう?―――それじゃあ、また」


「………え?あ、はい……また明日…」

ベルフェゴールは、いきなりキャラを専属運転手に切り替え踵を返して去っていった。
確かに、その方向は書庫ではあるが。



「なんだったんでしょう……?」



偶然?
それとも―――?


よく分からなすぎて、戸惑うしかなかった。その行動も、彼自身も。

瞳子はゆっくり左の重厚な扉を見つめた。じっと見つめたあと溜め息を一つ吐いた。
そして、彼女自身も自らの自室へと帰って行った。


第三章終.
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