短編小説集
さくら



開花予想よりずいぶん早く、桜の花が咲いた、らしい


らしい、と言うのは、実際に私が見たわけではないから


私は桜が苦手だ


綺麗だと思う、でも、嫌な想い出と重なるから、苦手


―「ばいばい」


最後に聞いた彼の声は、小さく掠れていた


それに返事もできず、私は彼の背中を見送る


満開の桜の下で、私は彼と別れたんだ


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