百花繚乱〜暗黒街花屋敷炎上絵巻〜
ヴァリーフォージへ行く前に、傀楼殿の跡地へ行った。 あの頃と変わらないのはこの桜の木だけだった。全てを消された時と同じ季節。まるで慰めるかの様に桜の花びらは俺を優しく包み込んだ。


「後悔はしねぇ。俺は全てを見てくる。必ず復讐してやる……。それに……、同じ思いをする奴がこれ以上増えるのは嫌だ。……まぁ、俺もこれからは殺る側に
回るんだけどな。代償として失うものももうねぇ。だから心置き無くヴァリーフォージの狗になってくるわ。みんな………どうか俺を見守っててくれ………」


もう何もいらない。この体1つあればいい。感情とか心とか、そんなもん持ってたらヴァリーフォージの傀儡になっちまう。リアルに俺じゃなくなっちまう。邪魔になるだけだ。邪魔なもんは全部………、ここへ置いて行こう。


翌朝アレクトがまた迎えに来て、ヴァリーフォージ本部へ向かった。薄汚い路地裏とは訳が違う大層な建物だ。昔一族の大人達が
働いてた所………。あのままいけば俺だってここで働く大人になっていただろう。だけどまさかこんな形で……。


「おい。お前一体何者だ?」
「何者?昨日も言ったろ?工作員と医科学養成所の生徒の二足の草鞋を履く男だってば!」
「そんな事ありえるのか?お前みたいなガキが………」
「ガキで悪かったな。言っておくけど俺はゼファと同い年だよ?」
「……………マジかよ」


こいつ………なんなんだよ……。何考えてるかわからない。毎度不適な笑みを浮かべるばかりだ。黒服だし、もしかして俺が東雲の人間だってわかってるのか?
復讐目的でここへ来たのもわかってるのか? アレクト…………。危険かもしれないな。


工作員の制服は漆黒だった。路地裏にいる奴等が見た『黒服』ってのはやはり工作員で間違いないのだろう。俺もこの返り血を浴びてもわからない黒服を着て、軍の狗になった………。

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