LAST LOVE -最愛の人-
「本当に好きな相手とは、なかなか付き合えないし

自分の好きな相手と両思いになるって、すげー確率なのかも」





夜道には迷惑であろう集団の声が、遠くに聞こえた。

固まって歩いていたはずなのに、いつの間にか輪から外れていたことに芽依は気付く。

拓弥や理子はどこだろうか、背中は見えるものの、既に判別はつかない。


「結城サン、アイス食べません?好きなの買ってあげます」


夜道を明々と照らすコンビニの光を、翔は指差した。


「いいね。ダッツがいい」


一番高いやつじゃん、と翔は笑う。
コンビニのドアが開くと、無機質な電子音が二人を歓迎してくれた。

シンプルな革の折り財布をデニムのポケットから取り出すと、アイスのコーナーに足を進める。

愛想の無い店員は表情を変えず『イラッシャイマセ』と声を放ち、深夜の訪問客を歓迎しているようにも、疎んでいるようにも見えなかった。






芽依はといえば、先程の翔の一連の言葉がぐるぐると頭の中を反芻するだけで
翔の背中を眺めたまま、ただ何も言えずにいた。










***





「昨日、どこに居たの?」


開口一番、拓弥は芽依を問うた。
不機嫌そうに、しかしできる限りそれを表さないように声のトーンを和らげているのが見て取れる。

拓弥から何度も着信が入っていたのに気付いたのは、家に着いて携帯を開いてからだ。

心配するようなことは何も無いものの、流石に二人きりで4時まで話し込んでいたことを伝えるのも負い目を感じ、すぐには折り返さなかった―――

ことがアダになった。


「ゴメン。莢木クンと話してたら、はぐれちゃって。
家まで送って貰ったんだけど、携帯も見ないまま寝ちゃったの」


飲み過ぎだね、と芽依は付け加える。
大きな嘘は無いものの、言い訳がましいな、と自ら感じていた。

同時に、どうして言い訳みたいなことをしなければいけないのだろう、という思いが心を曇らせる。






「ホントに、ゴメンね」




溜め息を吐く拓弥を、芽依はただ眺めていた。

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