LAST LOVE -最愛の人-
始まりのピストルはいつも唐突に鳴らされる。






芽依は深呼吸をして目を閉じた。

瞼に焼き付いて離れないのは、先程の青空と泰紀の笑顔。


胸が高鳴る。




────パァン!!




勢いよくスニーカーが砂を噛んだ。

良いスタートだった。
風が頬を駆け抜けて行く。

ただ無心で。





声援が遠くに聞こえる。


カーブにさしかかると、一気に遠心力が芽依の体を外に押し広げる。
途端、内側から視界に影が移った。



(抜かれた!!)



僅差で詰めてきていた二位が、隙間をかいくぐり芽依の体をかわした。

ゆっくりと、しかし確実その背中は少しずつ離れて行く。


その焦りは体よりも先に心を蝕みはじめる。



息があがる。


先程は意識していなかった自身の呼吸の音がやけに大きく耳に響くようで。




(追いつかない……!!)




芽依の身体がぐらついた時だった。




聞こえたのは




「蹴れ!」




いつもの





「蹴れば身体が前に進むから!」




ムカつく




「いける!あと少し!」




"アイツ"の声





(負けたく………ない!!)





靴底が砂を力強く弾いた。


熱く焼けた砂が飛び跳ねるようで。



そのまま腕を伸ばすとバトンが前方に渡った。





「───ハァ…ハァ……」



最後の一瞬、少しだけ、前方を行く走者との距離が縮まった───気がした。





「よし。オマエにしては、よくやった」




『アンタ何様よ』と言い返したかったが、息が整わない。









「あとは、任せろ」








ぽん、と芽依の背中を軽く叩くと、泰紀は前線へと顔を向ける。




その横顔がいつになく頼もしく見えて。








───再び、胸が高鳴った。


< 22 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop