ただ あなただけ・・・

「・・・いや、今日はもう帰る」


「そうですか・・・あの・・・ありがとうございました」


「・・・ん?」


頭を撫でる手を止め、私を見つめる。


「その・・・見ず知らずの私なんかの浮気相手に――あ・・・」


言葉が終わらないうちに、抱き寄せられる。


「礼はいらない。ただ俺が妃奈を気に入っただけだ」


私の髪を一掬いし、唇を落とす。


「――いがら―・・」


右手で私の口を覆う。


「・・・『五十嵐』じゃない。『隼人』だ」


声が出せないのでコクン、と頷いた。五十嵐はフッと微笑み、体を離した。


私は車のドアを開け、外に出た。


「わざわざありがとうございました。また会えますよね・・・?」


「あぁ・・・会いに行く」


二度と会えない気がした。なんだか遠い存在のような気がして――――


「――ば・・わ・・か――若葉!!」


「え・・・?」
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