揺れる
揺れる
 私はよく揺れる。


 実際に体が縦や横に揺れるのではなく、私の「何か」が揺れる感じがする。



 酔っているときに神経が麻痺し、感覚が鈍ったときのような感じなのかもしれない。



「自分も揺れることがあります」



 喫茶店でふとしたことから話すようになったタカダさんに、三回目に会った頃、そんな言葉を聞いた。



 タカダさんも揺れるんですか?



 なぜ揺れるのかわからなかった私は、タカダさんのその言葉に食いついた。



 タカダさんは少し驚いて戸惑ったように、ポケットからハンカチを取り出して額を拭った。



「はい。イシイさんもですか?」         


 えぇ。どうして揺れるのでしょうか?



 私のそんな問い掛けにタカダさんは照れ笑いし、「たぶん、こんなときも揺れます」と言って足早に店から出ていった。     


 古めかしい鈴の音が鳴り響いた店内で私はわけがわからず、足早に去っていくタカダさんを窓越しに見つめた。
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