揺れる
 それから一週間も経たずに、またタカダさんと喫茶店で鉢合わせになった。



 今日こそは最後まで訊いてやる、と私はすかさずタカダさんが座っている窓際の椅子に腰を下ろした。



 こんにちは。



「こんにちは」



 少し驚いたのか、戸惑ったようにタカダさんは笑った。



 笑った口元に白いコーヒーカップを持っていき、「天気がいいですね」と言ったあとに飲んだ。    


 そうですね。今日はお休みなんですか?



 スーツ姿ではなかったタカダさんに私は不意にそう問い掛けた。



 タカダさんは頭を下に傾けて自分の姿を見ると「変ですか?」と不安そうに訊ねてきた。



 いいえ。素敵ですよ。



 私がそう言うとタカダさんは照れ笑いして「ありがとうございます」と小声で言った。



 それから揺れることについて訊ねようとしたとき、「約束がありますので。これで」とタカダさんは飲み終えたコーヒーカップを受け皿に置き、足早に店を出ていった。
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