揺れる
「 」
 いつか書きたい物語があった。



 いつか、というのは、そこにあるはずの言葉が自分自身理解できていなかったからだ。



 だから書くことはなかった。



 いや、書けなかった。



 構想から数年が経ち、いつしかその言葉を聞く機会が多くなった。



 しかし私はその言葉を決して口にはしない。



 でもようやく、その言葉の切れ端が見えたようにも思える。



 切れ端が見え、そしてその言葉の重みを知った。



 それを認識すると、伝えるべき相手がいることに気がついた。



 けれど言葉にはできない。



 言葉にはできないけど、きっと伝えなければならないこと。



 だからいつか書こうと思う。



 その言葉を伝える物語を。



 その言葉はきっと、それ一言では伝えられないものだから。        


―おわり―
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