揺れる
痛み
 不意に生きている感覚が曖昧になって、手首を剃刀で切りつけてみた。   


 安物ではあったが新品の剃刀は、滑らせるように軽く切っただけなのに、私の手首に思ったより食い込み、鋭い傷跡をつけた。



 痛い。



 その痛みは不思議と私に生きている感覚を与えてくれた。



 その日以来、私は手首を幾度となく切りつけた。



 それは生きている感覚が曖昧になったから、だけではなかった。



 たとえばストレスが溜まったとき。



 あるときは悲しくて仕方がなかったとき。



 そして消えてしまいたいと思ったとき。



 わかってはいたが、負の感情が芽生えたとき、私は剃刀を滑らし、負の度合いによって肉体に食い込む刃の深さを、自然と調節していた。
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