揺れる
 でも切りつける頻度が増えていくたびに、どんな感覚かを意識することなく、切りつけるようになった。


 どうして手首を切りつけるようになったのか、いつしか忘れてしまっていた。


 それと一緒にその痛みは薄れていき、顔を洗うように手首を切りつけるようになった。



 血で駄目になった剃刀の数はもう把握していない。


 赤ではなく、乾燥して茶色になった自分の血はなんとなく覚えている。   


 感覚は麻痺し、それに気がつかずに私はもっと痛みを求めるようになった。



 気がついたときには職場のビルの屋上に私は立っていた。



 職場と言ってもアルバイト。



 私には何もない。



 無機質な換気の音が耳に入り込み、目に映ったのは錆ついた低い鉄の柵。



 私は空を求めるように上空に目を向けながら、その柵を跨いだ。
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