飴色蝶 *Ⅰ*
彼女の唇の端から血がポタポタ
と落ちた。

「堅気のお嬢さんに見せるよう
 な物では無かったね
 ついつい気が立ってしまった
 
 私はここで帰らせてもらうよ
 支配人、これで彼女に
 タクシーを呼んであげてくれ
 
 誘っておいて先に帰る事を
 どうぞ許してください
 これに懲りずに、また
 こうして会って頂きたい」
 
私は、震えて何も言えなかった

会長の姿は店内から消え、私は
ほんの少しだけ心が落ち着いて
来た。
        
床に座ったまま放心状態の彼女
に、私は声をかけた。

「大丈夫?」

私が差し出したハンカチを
彼女は手に取った。

そして、傷口に触れる。

「ええ、ありがとう」
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