飴色蝶 *Ⅰ*
庵を想って痛む胸に、両手を
当てて目を閉じ強く押さえる。
  
しばらく、そこから動けない菫

菫の部屋の窓を見上げる庵
そこに菫の姿は無くカーテン
だけが、風に揺れている。

菫の部屋、開いたドアが
ゆっくりと閉じ、その閉まる音
が建物中に響いた。

上着のポケットから、煙草を
出す庵の傍に、要が近寄る。

「カナメ・・・」

「やはり、こちらでしたか?
 心配しましたよ」

「すまない、それより
 俺の車はどこだ」 
 
「若衆に昨晩、私が預かって
 いるスペアキーで、親父の
 自宅へ乗って帰らせました」

煙草を銜える庵と要は
並んで歩き、角を曲がった途端
庵の顔色が険しく変わる。

< 397 / 488 >

この作品をシェア

pagetop