飴色蝶 *Ⅰ*
「ああ、何も無いさ
 心配しなくていい
 
 すみれ、あいつはまた
 お前の前に現れるかも
 しれない、俺は・・・」

不安な菫の傍にいてやる事さえ
もできない。
  
庵の顔色は曇って行く。

「心配しないで私なら大丈夫」

「何かあれば、すぐに
 電話して来い」

不安で堪らないと言えば

貴方は、ここへ来てくれる?

私に逢いに、来てくれますか?

今朝、別れたばかりなのに

もうこんなにも

貴方に逢いたい。

逢わないと言われれば

尚更、逢いたい。

私は、その気持ちを、胸の
ずっと奥に閉じ込めた。

「明日も、声を聞かせてね
 待ってるから」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」

途絶える声

二人には虚しさだけが残る。
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