飴色蝶 *Ⅰ*
いつか彼女に、そう告げられる
ような気がしていた。
 
庵の心の奥深くに

ずっと在り続けた想い。

『俺を恐れ、アイツは
 きっと、俺から
 離れて行ってしまう』
  
ずっとずっと、庵は

それが怖かった。

何も言わない庵の手が
私の髪に触れる。

そして、涙で濡れる私の頬を
優しくその手で拭ってくれた後

私から離れた庵は、上着を取り
痛む腕を通して羽織る。
 
彼は、一言も話さずに
この部屋を出て行く。

私はただ、見つめていた。

彼の動作のひとつ、ひとつを。

玄関先で靴を履く、彼の後ろ姿
をぼーっと見つめる私に

振り返り、彼は優しい声で言う

「すみれ、今までありがとう
 お前と過した時間
 
 俺は忘れない」

ドアは閉まり

貴方の姿は見えない。
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