前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
ただ、なあ?
御多忙の身の上だっていうのに、こんなことしてもらって申し訳ないというか何というか。
ぶすくれている鈴理先輩にそう言うんだけど、先輩はますます脹れる。
仕舞いには「調教が必要か?」なんて物騒なことを言う始末。
も……もっと機嫌を損ねさせちまった。
どうしよう。
どうすりゃ機嫌が直るのかな。
ホトホト困っていると運転席から笑声が聞こえてきた。
「豊福さま。鈴理お嬢さまはお誘いを頂いて、とても嬉しいのですよ」
助け舟を出してきてくれたのは、バックミラー越しに俺等の様子を微笑ましそうに見ている中年男性。
ハンドルを握って運転席に腰掛けているのは運転手の田中さん。
とても人柄の良さの良さそうな中年男性だ。
パッと見、父さんとあんまり年齢が代わらないんじゃないかな。
田中さんは左にハンドルを切りながら、先輩から俺の話をよく聴いていると綻んでくる。
「お嬢さまは本当に豊福さまを好いておいでですよ。行きも帰りも貴方様のお話ばかり。少々不謹慎な発言はございますが、それも若気の至りかと思いながら微笑ましく見守っております」
ふ、不謹慎。
先輩、田中さんに何を話しているっすか。
俺、(不本意ながらも)先輩と不謹慎なことばかりしているから……何を話されているのか超不安なんだけど。
あれかな? これかな? 心当たりのある不謹慎なことを色々想像しちまうんだけど。
「豊福さま。お嬢さまは時間を割いてでも、豊福さまのお傍にいたいのですよ」
ニッコリとミラー越しに微笑まれた。
チラッと俺は鈴理先輩の方を見やる。
ツーンとそっぽ向いて脹れている鈴理先輩だけど、座る間隔を詰めてピタッと密着してくる。
ちょっと、嘘、だいぶんドキドキしてきた。
先輩に想われて嬉しくないわけない。素直に嬉しいと思える。
「実は」俺は怒っている先輩に白状する。
一緒に帰るってのは口実で、本当はデートに誘おうとしていたんだって。
「でも、こんなことならちゃんと先輩に最初っから相談しておけば良かったっす」
頬を掻きながら照れ隠し。
ま、まあ……想像していた帰宅光景は違えど一緒に帰れるんだもんな。
前向きに考えないと……ン? なんか太ももに違和感が。
俺は目線を下げる。
そこにはお触りお触りしている先輩の手が。