前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
――高所恐怖症は生涯、治せない呪縛なのかもしれない。
同時に自分を守るための防波堤なのかもしれない。
鈴理は思う。
彼氏の過去を聞いてこんなにも胸が痛くなるのは決して同情からではなく、相手のことが好きだから。
共に痛みを分かち合いたいと思っているからなのだと。
ケータイ小説ではよく、過去がどうのこうで男が女を守る話があるが(逆も時たま見つけるが)、まさに自分もその気持ち。守ってやりたい、と思った。
純粋に守りたいと思うのだ。
どうしようもない好意が自分をそうさせている。
守りたいのだ、好きな男を守ってやりたいのだ。支えたいのだ。
女だって男を守りたいと思うのだ。
男のヒーローになりたいと思うのだ。
理屈でない。ただただ好きな男を守りたいと思うのだ。
守り方にだって色んな方法がある。
「先輩、ごちそうさまでした」
パンッと手を合わせてごちそうさまと挨拶する彼氏を見やる。
自分が空に惚れたのは、空が入学する前からのこと。
空は知らないだろうが、自分は入学する前から彼を知っていた。
最初はそんな気は無かったのに、気付けば彼を見つめていたのだ。
小癪なこと自分ともあろう人間を、この男は落としてしまったのだ。
この落とし前、責任は取ってもらわなければ気が済まない。
その代わり……。
「空」
「あ、何っす……え゛? ちょちょちょちょーっ、先輩っ! 俺っ、風邪っす。キスは駄目ですから。あ、いや、散々されたかもしんないっすけど、これ以上は駄目っす!」
「黙ってあたしに流されろ。あんたに拒否権なし」
「あ、あたし様出たー?! ちょ、本気で駄目っす! 感染るっ!!!」