前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



感染せばいいさ。

心中で呟き、鈴理はかの恋人の両頬を包んで唇を奪う。


零れんばかりに瞳を丸くして瞠目する恋人の後頭部に手を回し、深い口付けをしながら鈴理は思うのだ。

自分を不覚にも落とした草食動物受け男を、精一杯守ってやりたい、と。


いいじゃないか、男を守るヒーロー的な女がいても。


自分は攻め女なのだ。

受け身男を精一杯守ってやりたい。


守られるのではなく、全力で守ってやりたいのだ。


そういう人間になりたい。


守り方にだって色んな方法がある。

文字通り前面に出て守る。

それは勿論だが傍にいる、支えになる、思い遣る、これもまた立派な守り方。


そういう人間でありたいし、空に必要とされる人間でありたい。


もしも、高所恐怖症のことで、また過去のことで、何か彼が傷付くような事があれば、その時は全力で守ってやりたい。ヒーローとして。


(ま、それにはまず相手を完全に落とし返さなければな)


自分を落とした相手を、今度は自分が落としてやるのだ。


あたし様の物になってくれなければ、本当の意味で彼のヒーローにはなれないではないか。


それどころか美味しく頂けない。


早く美味しく頂きたい肉食心なのだが……嗚呼、まったく、忍耐だけが付きそうだ。


ペロッと赤面する相手の唇を舐め、鈴理はニヤッと口角をつり上げる。



「好きだ、空。早く元気になれよ」
  


そして早く、本当に自分に落ちてくれよ。

肉食お嬢様は相手の様子をご機嫌に窺っていたのだった。


片隅で草食の幼少に胸を痛めながら。


< 144 / 446 >

この作品をシェア

pagetop