前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
父さん、母さん、息子は童貞のままでいられるんでしょうか?
童貞を死守するわけじゃないけれど、まだ俺にはエッチなんて早いよ!
思わず涙を呑み、「大丈夫かな」深い深い溜息をついて肩を落とした。
「食われることも勿論心配だけど、俺なんかが先輩の家に行ったら……家の人に仲を反対されそうでさ。先輩には許婚がいるし」
不安は尽きない。
先輩には表向き許婚がいる。
二階堂先輩の性格は置いておいて、容姿的にめちゃめちゃカッコイイし、財閥の子息だから所謂財力もある。
先輩がどんなに容姿や財力なんて無関係だといっても、周囲はそうはいかないだろうな。
こんな弱音を吐いたら先輩が気にしちまうから、俺もなるべくは気にしたくは無いけど、堂々ともしたいけど、窮屈な思いだってしたくもないけど。
でもなぁ。世間体ってのは意外と冷たい。
愛はお金じゃ買えないってどっかの歌のフレーズで言うけど、お金がないと現実話、いろんな面で苦しい。
貧乏の肩書を負っている俺が言うんだ、間違いない。
お金がなかったが故に不幸せなことだって沢山ある。
お金以上に大切なものがあるんだって気付かされることも多いけど、同等に不幸せなことに気付かされることだって。
お金の有無を問われたら、当然あった方がいい。
どうしようどうしようどうしよう、家に行ったら「こんな奴が娘と付き合っているのか!」とか喝破されて、大反対されて、寧ろすぐさま別れるよう言われて、最悪修羅場を迎えたりして。
アイタタタッ、想像するだけで胃がキリキリしていたぞ。
ついでに先輩から逃げられるかどうかもっ、あああっ、不安過ぎる、今週の土日。
「大丈夫だって」
ネガティブになっていく俺を励ましてくれたのはアジくんだった。いつもの男前でアジくんは言ってくれる。
「不安もあるだろうけどさ、大事なのは結局お前と先輩の気持ちだ。折角泊まりに行くんだから、暗い顔をしていちゃ駄目だろ」
「アジくん」
「空はこうして先輩を気遣える優しい性格じゃないか。お前はイイ男だよ。カッコイイとは、うーんお世辞にも言えないけど……人のことで一緒に泣いて笑える男だ。それってつまりイイ男に違いないってこと。そうだろ? 少しは自分に自信持てよ」