前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「だからナニをしていたと聞いているのだ、竹光!
何故、誰も空を客間に案内していない?! あたしは事前に言っていた筈だぞ。今日は大切な客が来ると!」

「申し訳ございません。今、お捜している最中ですので。お嬢様、落ち着いてくだされ」


「落ち着いていられるか! どれほどこの日を待っていたと思っているのだ。本当は今日だって習い事をキャンセルして、空を迎えに行きたかったというのに……まさか竹光、あんた、またせっかちを起こして空を追い帰したりなんてことは」


「滅相もございませんのう、お嬢様。この竹光。今回はそんな失態などひとつも起こしておりませんぞ!」


あのじいさん、せっかちでちょいちょいヤらかしているのね。


微苦笑を漏らして、俺と晶子さんは部屋の隅に移動。

小さな丸テーブルにトレイを置く。


俺等の姿に気付かない鈴理お嬢様はドドド不機嫌に、持っていたクッションをベッドに放って腕を組んだ。



さてと、どうやってお嬢様を驚かせようか。

うーむ、折角だし、こう、どどーんと笑い話になるような驚かし方を。


いやいや、もう普通でいいっか。


俺は一度置いたトレイを持って、お嬢様に歩み寄る。


「あ。駄目よ」


晶子さんに止められたと同時に、「不届き者め!」竹光さんが俺の前に立って仁王立ちした。こ、怖っ。


「お主、此方の許可なくお嬢様に近付いて良い身分じゃないんじゃぞ。まだ研修中じゃというのに!」


痛烈な拳骨を食らうけど、どうしても俺が淹れたお茶を飲んでもらいたいんだよ。熱々の内にさ!

「すみません」

竹光さんに一応謝罪して、サッと脇をすり抜けると不貞腐れている鈴理お嬢様の前に立った。


後ろで怒声が聞こえるけど、でも、無視だ無視。

泊まりを楽しみにしてくれたご多忙なお嬢様に、俺はトレイを差し出して綻ぶ。


「習い事お疲れ様っす。お嬢、あー……この場合は俺のカレシと言った方がいいっすか?」


声に弾かれた鈴理お嬢様は、俺の顔を見つめて、見つめて、みつめて、瞠目。


「お騒がせしました。心配掛けてごめんなさい。俺は此処にいますよ」


目尻を下げたその瞬間、


「馬鹿者め。心配したじゃないか」


彼女は持っていた俺のトレイを引っ手繰ってベッドに置くと、俺に飛び、つく前に俺の体が後ろに放り投げられた。

うぇいなんで?!  思う間もなく、ガン、ゴン、ドン!


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