前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「お前等、他人事だと思って」 

「まあまあ。人の不幸はなんたら~って言うだろ? それにお前だってヤじゃないんだろ? 白昼堂々学校でキスをしているらしいじゃないか!」


アジくんの言葉に俺は面食らった。

まさかそこでキスの話題を振ってくるとは。

不覚にも動揺。顔中に熱が集まっていく。


だってあれは向こうが勝手にしてくるんだよ。

嬉しいかと言われたら、ああ少しは嬉しいさ! 悪いか! 俺も男だ。健全な男子なんだ。美人さんのキスで喜ばないわけ無いだろ!


でも素直には喜べない。

だって男の俺のポジションは先輩に奪われているのだから。


先輩好きです。お弁当を作ったんで食べて下さい、みたいな、可愛らしい女の子の攻めじゃないよ。

まさしく『俺様』『男前』が似合う雄々しい攻め。

『デリカシー』に欠けている男らしい攻め方だ。

普通の女の子じゃ言わない台詞を連発してくるんだぜ? デレデレというより、タジタジ。困るし途方に暮れる。


(先輩が女の子らしく告白してきてくれたらなぁ。俺も即付き合っていたと思うんだけど)


なにせ相手は肉食お嬢様だし。あたし様だし。変わっているし。なんか色々危ない思考のお方だし。

直後、俺はハッとした。

こんなことをしている場合じゃない。

さっさと教室から退散しないと鈴理先輩が来ちゃうじゃないか!

昼休みはイッチバン猛烈アタックを食らう時間なんだからな。

早く弁当持って中庭にでも避難しないと。

フライト兄弟の腕を振り払って俺は弁当と水筒の入った紙袋を手に、いざ。 


「あたしに気付くまでの時間、二十二秒か。まあまあの時間だが、もう少し早く気付いてくれても良かったのではないか?」


振り返った瞬間、目前にスマートフォンを持って時間を測る鈴理先輩がいるのですが、俺はどういったリアクションを取るべきでしょうか。

驚くべきでしょうか。

絶叫を上げるべきでしょうか。

それとも絶句するべきでしょうか。

スルーするべきでしょうか。


……どうすればいいんでしょう。


カチンと固まっている俺に対し、

「逃げなかったということは所有物の自覚が芽生え始めたな」

鈴理先輩はニンマリと口角をつり上げた。


いやいやいや。

残念なことに俺、今からさあ逃げよう! と、していたところです。

弁当と水筒の入った紙袋を見て分かりませんでしょうか?


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